小規模事業者持続化補助金の概要

「補助金申請は中小企業診断士の専門技能」でも触れたように、中小企業庁は中小企業を支援する様々な制度を設けている。補助金もいろいろある。ただ、この補助金制度、細かなルールが多く初心者にはとても分かりにくい。初めて申請を検討する人がまずぶち当たる疑問は、自社はどの補助金を申請できるのか?というところだろう。過去の記事で小規模事業者持続化補助金、ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金、中小企業省力化投資補助金に触れたので、今回はその中から小規模事業者持続化補助金について見ていく。
ザックリ小規模事業者持続化補助金とは
小規模事業者持続化補助金は、国や自治体が小規模事業者の販路開拓や業務効率化に必要な経費の一部を補助する制度である。この制度の目的は、地域雇用の維持と産業基盤の強化である。より具体的には以下の3点があげられる。
- 小規模事業者の販路開拓や業務効率化の取組を通じて、経営体制を強化し雇用を維持・拡大を図ること。
- 小規模事業者の販路開拓や業務効率化により、地域の産業構造を強固にすること。
- 特定の産業や大企業への依存度を下げ、地域経済のリスク分散や持続性を高めること。
小規模事業者持続化補助金の対象者
補助金の支給対象となる小規模事業者は業種によって異なる。大まかに言うと次のように定められている。
- 商業・サービス業(宿泊・娯楽業除く):常時使用する従業員5人以下の事業者
- 製造業・建設業・運輸業:同20人以下の事業者
- 宿泊業・娯楽業:同20人以下の事業者
ただし、その他にも制限があり、申請のためには次の要件を同時に満たす必要がある。
- 大企業系列下にない事業者
- 直近3年間の平均課税所得が15億円を超えないこと
- 日本国内に本店・主たる事業所を有すること
さらに、過去の補助金受給歴や事業実態によって受給対象とならないこともある。個別のケースは申請時に商工会議所の相談窓口や中小企業診断士などの専門家に相談してほしい。
補助の対象となる費用
販路開拓の取組とそれと合わせて行う業務効率化の取組が補助の対象となる。販路開拓の取組は、広告・広報、ウェブサイト構築、展示会出展、新商品開発、店舗改装など、売上拡大や新市場開拓を目的とした幅広い活動を指す。小規模事業者持続化補助金<一般型 通常枠>第17回公募 参考資料(r6_sanko_ip17.pdf)のp.4を引用すると、次の例が挙げられている。
- 新商品を陳列するための棚の購入
- 新たな販促用チラシの作成、送付
- 新たな販促用PR(マスコミ媒体での広告等)
- 新たな販促品の調達、配布
- 国内外の展示会、見本市への出展、商談会への参加
- 新商品の開発
- 新たな販促用チラシのポスティング
- 国内外での商品PRイベントの実施
- 新商品開発にともなう成分分析の依頼
- 店舗改装(小売店の陳列レイアウト改良、飲食店の店舗改修を含む。)
引用ここまで。
次に業務効率化の取組は、業務の無駄を省き、作業時間やコストを削減し、生産性を高めることを目的とした具体的な改善活動のことで、ITシステム・ソフトウェア導入による業務のデジタル化、業務プロセスの見直しと改善、生産性向上を目的とした設備投資などが対象となる。
先程と同様にr6_sanko_ip17.pdfのp.6を参照すると以下の例が紹介されている。
- 新たに倉庫管理システムのソフトウェアを購入し、配送業務を効率化する
- 新たに労務管理システムのソフトウェアを購入し、人事・給与管理業務を効率化する
- 新たにPOSレジソフトウェアを購入し、売上管理業務を効率化する
- 新たに経理・会計ソフトウェアを購入し、決算業務を効率化する
引用ここまで。
補助金の上限額
まず基本的な部分だが、小規模事業者持続化補助金では他の多くの補助金と同じく、補助対象となる経費の2/3が補助されるのが原則となっている。事業計画で300万円の経費を想定した場合には、補助金は200万円までの支給となる。また、基本的には返済の必要はない。ただし、補助金の交付条件や用途の使い道について定められたルールに違反した場合、返還請求が行われる可能性がある。
ここから先は、小規模事業者持続化補助金の様々な類型について順を追って説明していくので、中小企業庁のサイトにある持続化補助金の概要を確認しながら読み進めていただきたい。
一般型
一般型の場合、基本となる通常枠では補助金の上限額は50万円である。インボイス特例、賃金引上げ特例の二つの特例が用意されており、両方の要件を満たせば上限は250万円となる。インボイス特例は、免税事業者から 課税事業者に転換する事業者に対し、補助金上限を50万円上乗せする。賃金引上げ特例は、事業場内最低賃金を 50円以上引き上げる 小規模事業者に対し、同じく150万円を上乗せする。
一般型にはもう一つ災害支援枠が併設されている。令和6年の能登半島地震等で被災した小規模事業者には、直接被害を受けた場合は200万円、間接被害を受けた場合は100万円を上限に補助金が用意されている。また、補助の対象となる経費も、通常枠に対して、設備処分費と車両購入費を追加することができる。
その他の型
小規模事業者持続化補助金には一般型以外に、創業型、共同・協業型、ビジネスコミュニティ型という3つの型がある。補助上限は創業型200万円、共同・協業型5,000万円、ビジネスコミュニティ型50万円となっている。以下に各型の概要を説明する。
創業型
創業型は、一般型の申請要件に加え、創業後3年以内の事業者であることと、市区町村が主催する創業塾や創業セミナー、創業相談などの特定創業支援等事業を受講し、産業競争力強化法に基づく「認定市区町村」または「認定連携創業支援等事業者」が実施する「特定創業支援等事業」の支援を受ける必要がある。補助対象となる経費は一般型と同様である。
共同・協業型
共同・協業型は地域振興等機関(商工会、商工会議所、商店街振興組合など)が申請主体となる必要がある。参画する小規模事業者が10者以上必要であり、小規模事業者が単独で申請する枠組みではない。補助上限の5,000万円も地域振興等機関と参画する事業者全体に対する補助額の総額の上限である。
ビジネスコミュニティ型
ビジネスコミュニティ型も、単独の小規模事業者でなく、商工会・商工会議所の内部組織等(青年部、女性部など)が申請主体となる。セミナーや研修等の実施を通した販路開拓支援、事業承継支援、地域の防災や災害復旧活動等が支援の対象であり、事業者の事業活動を補助するという意味合いは薄い。
補助金受給のタイミングと受け取るまでの手順
小規模事業者持続化補助金は、事業計画書で計画した事業を実施した後に受け取る設計である。また、交付の決定を受ける前に発生した費用は計上できない。以下に、申請から補助金の入金と事業効果報告書の提出までの流れを紹介する。
1. 申請準備・書類作成
- GビズIDプライムの取得
電子申請に必須。事前に取得しておく。 - 経営計画書・補助事業計画書の作成
事業内容や目標、補助金の使い道を詳細に記載する。 - 商工会・商工会議所との連携
計画書を持参し、「事業支援計画書(様式4)」の交付を受ける
参考:GビズIDについて(GビズID | よくある質問より引用)
GビズIDとは、複数の行政サービスを1つのアカウントにより、利用することのできる認証システムです。
GビズIDにおいてアカウントを登録すると、このシステムにつながる行政サービスでの利用が可能となります。
利用することのできる行政サービスについては、順次拡大を図っていきます。
引用ここまで。
2. 申請手続き
- 必要書類の提出
電子申請(推奨)または郵送で、全ての書類を提出する。郵送での申請は減点対象とのことで、jGrants2.0による電子申請が推奨。
参考:jGrantsについて(よくあるご質問 | jGrants ネットで簡単!補助金申請 | jGrantsより引用)
jGrantsとは、デジタル庁が運営する補助金の電子申請システムです。
いつでも・どこでも申請が可能であり、交通費・郵送費等のコスト削減や、過去に申請した情報の入力や書類への押印が不要になるなど、事業者の皆様における手間やコスト削減を目的としたシステムです。
引用ここまで
3. 審査・採択
- 審査
提出された書類をもとに外部有識者等が審査 - 採択通知
採択・不採択の通知が届く(締切から約2か月後)
4. 交付決定・補助事業の実施
- 交付決定通知の受領
採択後、補助金交付が正式に決定する - 補助事業の実施
交付決定後に、自己資金で事業を実施
5. 実績報告・補助金請求
- 実績報告書の提出
事業終了後、かかった経費や成果をまとめた報告書を提出 - 補助金額の確定・請求
報告内容の承認を経て補助金額が確定する。請求手続きを行う。
6. 補助金の入金
- 補助金の振込
これまでの実績では請求の約1~2か月後に指定口座へ入金される。
7. 事業効果報告
- 事業効果報告書の提出
補助金受給後、一定期間内に事業の成果や効果を報告する
2025年度の公募の時期
ここを読んで、「さあ申請しよう」と思った方がいるかも知れない。実は2025年度の初回の締め切りは6月13日となり、直前に迫っている。ただ、絶望しないでいただきたい。小規模事業者持続化補助金の公募回数は年に複数回(通常は3回程度)設けられている。本年度も期間を開けて2回目、3回目の公募が見込まれている。