企業の海外展開:戦略的提携

これまで、グリーンフィールドクロスボーダー企業買収について紹介してきた。本稿では戦略的提携による海外進出について触れる。

戦略的提携の概要

戦略的提携は、進出国のパートナーと緩やかで柔軟な結びつきを作る形態のことである。契約関係に基づく提携と資本関係に基づく提携があり、前者の場合では出資を伴わない。

戦略的提携を分析するために、形式的分類と経営資源の交換に着目した分類(Resource-based view)が提唱されている。

戦略的提携の形式的分類

形式的分類の代表例としてYoshino and Rangen, 1995は、企業間関係が戦略的提携とみなされる条件を3つにまとめている。

  • 独立性の維持
  • 成果とコントロールの共有
  • 継続的な戦略的寄与

独立性の維持とは、2つもしくはそれ以上の企業が提携をした後も独立した状態を保つことである。したがって、企業買収による子会社化は戦略的提携に含まれない。また、国外の企業が対象国の規制に対応するために、形式的に対象国の企業と合弁会社を設立することがある。このようなケースも、実質的に国外の企業の支配下にある場合には、戦略的提携とみなすべきではない。

成果のコントロールと共有とは、提携に参加する企業が協力して得た成果(利益や新製品、技術など)を分け合い、またその運営や意思決定についても共同して管理・コントロールすることである。例えば、共同開発、共同マーケティング、サプライチェーンの最適化などが挙げられる。共同開発では、提携に参加する企業が新製品の仕様や販売戦略を合意(コントロール)し、売上や特許権(成果)を分け合うケースがある。共同マーケティングでは、各社がキャンペーン内容や予算配分を共同で決定し(コントロール)、得られた新規顧客や売上(成果)を分配する。サプライチェーンの最適化では、物流ルートや在庫管理方法をともに決め(コントロール)、物流コスト削減などの成果を両社で享受する。

継続的な戦略的寄与とは、提携に参加する企業が、1つもしくは複数の戦略的領域で継続的に貢献することである。戦略的領域とは例えば、技術や生産などの領域を指す。戦略的提携とは一度きりの協力ではなく、長期間に渡る関係であり、パートナーがそれぞれの強みを持ち寄り、相互に価値を高めあうことをいう。

経営資源の交換に着目した分類

経営資源の交換に着目した分類は、企業を経営資源の集合体として捉え、戦略的提携を経営資源の観点から分析するアプローチである。以下、安田(2010)より3つの定義を紹介する。

  • 「企業間での経営資源の統合」 (Das and Teng, 2000)
  • 「経営資源を分担することにより、競争力および業績を向上させようとする、複数企業間の協力的枠組み」 (Hitt et al, 2000)
  • 「技術・製品・サービスの交換、分担、もしくは共同開発を伴う企業間の任意的結合」 (Gulati, 1998)

これらは経営資源の交換に着目した戦略的提携の表現である。いずれの定義でも、提携に参加する企業がそれぞれ経営資源を拠出し、協力関係を築くという点が共通している。

戦略的提携の形態

企業の海外進出を考えたとき、戦略的提携には、生産委託、販売協力、共同開発、合弁会社の設立などが考えられる。これらの形態を経営資源の交換に着目して分析する。

生産委託

生産委託では提携相手の生産資源を活用する。ここでいう生産資源とは、いわゆる生産の4M(Man, Machine, Material, Method)のことで、生産人材、工場、装置設備、加工方法、動力などの固定資産、材料、水、ガスなどの加工に伴うインプットのことを指す。

海外進出においてこの形態が採られる背景は、人件費の削減による生産コストの引下げや現地市場への輸送コストの低減である。すでに効率的な生産資源を有している提携先に生産委託を行うことで、自社による生産よりもコストを下げることを狙う。また、現地市場に近い場所で生産し効率的な供給が可能になる。ただし、商工中金の報告(中小企業の海外進出・輸出に関する調査、中小企業設備投資動向調査(2025年1月調査)付帯調査)にもあるように、現地の人件費の上昇や関税などの政治的要因により、必ずしも採算が取れなくなってきている。

販売協力

販売協力では提携相手の販売資源を活用する。販売資源とは販売チャネル、人材、相手企業のブランド力などを指す。海外展開に当たっては、進出先国の企業と提携し、提携先企業が進出先国で保持するノウハウを活用できる。ここでいうノウハウとは、その国特有の商習慣、規制、言語、文化に適合した販売のノウハウである。

共同開発

共同開発では、自社に不足している開発のための経営資源を、量的または質的に補完することができる。量的な補完では、資金や研究員の人数など、自社で量的に不足している経営資源を、提携相手と共同で拠出し増強する。質的な補完では、マーケティング力や生産技術・設計技術のように、異なる領域でお互いの強みを持ち寄ることで、効率的な製品開発を行う。

例えば、新興国の現地企業と共同で、コストや機能を現地ニーズに合わせた製品を開発し、現地市場に参入することが考えられる。進出先国の提携企業が持つ、現地市場に対するマーケティング力と、自社が持つ生産・設計技術を組み合わせた例である。

合弁会社の設立

合弁会社は、自社および提携相手が共同で資本を拠出し設立する、独立した企業体である。生産委託、販売協力、共同開発の3つの提携の形態が「契約関係に基づく提携」と分類されるのに対し、合弁会社の設立は「資本関係に基づく提携」と整理される。 提携企業間で資本関係を持つことにより、提携相手との結びつきが強固になり両社のコミットメントが高まる効果がある。海外進出でこの形態を採るメリットとしては、現地の企業として認知され、その国の従業員を雇用しやすいことや、自国とは異なる商習慣や法制度に適応しやすく、現地市場の開拓が容易になることが挙げられる。この点はクロスボーダー企業買収のメリットと同様である。

戦略的提携のメリット・デメリット

次に、戦略的提携のメリット・デメリットを見ていく。戦略的提携のメリット・デメリットはクロスボーダー企業買収のそれと比較して考えると理解しやすい。ここで注意すべきは、戦略的提携の目的は、提携企業が持つ経営資源の活用であり、クロスボーダー企業買収の目的は被買収企業が持つ経営資源の獲得であるという違いである。

ただし、ここでいう戦略的提携は契約関係に基づくものを想定している。合弁会社の設立は、契約に基づく戦略的提携とクロスボーダー企業買収の中間に位置する方法であり、両者のメリット・デメリットを併せ持っている。

戦略的提携のメリット

  • 目的の経営資源を獲得するための調達コストを低く抑えられる
  • 不要な資源まで獲得してしまうリスクを避けられる
  • 契約の見直しの自由度が高く、市場の変化に応じた柔軟な対応が可能

契約関係に基づく戦略的提携はクロスボーダー企業買収と異なり、目的とする経営資源に絞って契約することができる。クロスボーダー企業買収では企業全体を買収するため、目的としていない経営資源まで獲得してしまう場合がある。これらの資源を処分するにもコストがかかる。

戦略的提携では提携相手との契約に基づいて資源を活用する。当該資源を利用する必要が無くなれば、契約の解消によって提携関係も解消することができる。企業買収した場合には、自社に代わる買収先を見つける必要があり、大きな労力を要する。

戦略的提携のデメリット

  • 目的とする経営資源を自社の希望通りに活用できるとは限らない
  • 獲得した資源の活用に際して、提携相手との調整が必要になり、意思決定に時間を要する

戦略的提携においては、提携相手の経営資源を両社で合意した契約に基づいて活用することになる。この資源は提携相手が所有するものであるため、自社が希望するように活用できる保証はない。活用の方法は契約の際に注意深く検討する必要があり、合意事項を超えて利用する場合には、提携相手と新たに交渉しなくてはならない。迅速な意思決定においてはクロスボーダー企業買収の方が有利である。

以上、契約に基づく戦略的提携はクロスボーダー企業買収に比べ、低コストで柔軟性がある一方、迅速な意思決定には向かないと言える。また、繰り返しになるが、合弁会社の設立は両者のメリットとデメリットを併せ持っている。

参考文献

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