Manage: 組織の壁を越えプロジェクトを推進する

オープンイノベーションにおいて、パートナー企業との間で堅牢な契約(Get)を結ぶことは重要だが、それだけで自動的にイノベーションが生まれるわけではない。オープンイノベーションの真価が問われるのは、契約というスタートラインに立った後である。企業文化や組織の常識、スピード感が全く異なる両者が一つのチームとして成果を出すためには、違いを乗り越えて共創のPDCAを回す「柔軟なプロジェクト運営(Manage)」の仕組みづくりが不可欠である。本記事では、多層的なガバナンス体制の構築や、組織文化のギャップの打破など、現場を動かしプロジェクトを目的地へ導くための「Manage(運営)」のポイントを、プロジェクトマネジメント論を交えて解説する。

(この投稿はオープンイノベーションに関する詳細記事の4本目です。親記事もご参考ください。)

多層的なガバナンス体制とRACIマトリクスの活用

まず「誰が、どのように現場を管理・牽引すべきか?」を検討する。これには、意思決定のレイヤーを分けた運営体制と、専任の「司令塔」を置くことが有効である。双方の経営幹部が全体を統括する「マネジメント協議会」と、専門的かつ詳細な議論を行う「実務小委員会」など、役割に応じた多層的な委員会体制を構築する。フラットな組織と上下関係の厳しい組織が協業する際、こうした階層化が文化のギャップを調整するクッションとなる。さらに、部門間の調整や外部とのパイプ役を担う専門の司令塔(アライアンス・マネジャー)を配置することで推進力が高まる。また、「RACIマトリクス」を活用し、タスクごとに実行責任者(Responsible)、最終説明責任者(Accountable)、相談先(Consulted)、報告先(Informed)を定義しておくことで、意思決定の停滞や責任の押し付け合いを防ぐことができる。

組織の常識(文化のギャップ)とNIH症候群の打破

実務を進める中で、業界や企業の常識の違いに直面することがある。例えば、率直に意見を言い合える風土の企業と、厳格な上下関係を持つ企業が協業する場合、考え方の違いから意見の衝突が起きたり、過度な忖度が生まれて議論が停滞したりするリスクがある。さらに、外部の知識やアイデアを拒絶してしまう「NIH(Not Invented Here)症候群(自前主義)」のバイアスも大きな障壁です。これを打破するためには、プロジェクトリーダーが「達成すべき大目標」と「各社に期待する役割」を明確に伝えなくてはならない。その上で、「解決策提供者の視点に立って開発プロセスや価値を再評価するアプローチ(視点取得)」を取り入れ、活動の参加者から定期的にヒアリングを行うことで組織の閉鎖性を打ち破ることができる。

WBS・ガントチャート・クリティカルパスによる実行管理

プロジェクトの進行管理においては、実務的な管理ツールを用いて進捗を可視化することが重要である。 まず、プロジェクトのスコープを定義し、タスクを細分化したWBS(Work Breakdown Structure)を作成して担当を割り当て、役割分担を明確にする。次にガントチャートを作成し、タスクの依存関係を整理する。この際、プロジェクト開始から終了までで最も長い所要時間を要する「クリティカルパス」を把握することが極めて重要である。不確実性の高いオープンイノベーションでは、状況変化に応じてクリティカルパスを定期的に見直しながら柔軟に対応していくのがポイントである。

リスクマトリクスを用いた不確実性への備え

プロジェクトには常に想定外のリスクが潜んでおり、リスクが顕在化する前提で備えることが基本である。開始段階で潜在リスクを洗い出し、発生確率と影響度の2軸で評価するリスクマトリクスを作成する。高リスクの項目には、回避・低減・転嫁・受容の4つの戦略オプションを組み合わせて対応計画を策定する。影響の小さいリスクについては「発生した際にその都度対処する」と割り切る受容戦略を採ることも有効である。

ブラムレス・ポストモーテム(責めない事後分析)と対外的なロジック

不確実性の高いオープンイノベーションでは、プロジェクトを途中で終わらせたり、見切ったりしなければならない局面が訪れることがある。協業関係が安定しすぎていると本質的な課題の放置を招く恐れがあるため、関係を解消・再編できる柔軟性を持たせることが泥沼化を防ぐ防衛策となる。 プロジェクトを中断する際は、特定の誰かの責任にするのではなく、「環境や市場要因が許さなかった」と整理して綺麗に幕を引くことが望ましい。しかし内部では、個人の責任を追及しない事後分析である「ブラムレス・ポストモーテム」を実践し、なぜ上手くいかなかったのか真因をシビアに解剖して組織知に変えることが、関係性を壊さずに次の協業の可能性を残す知恵となる。

結び:大洋を航海する帆船として

異なる背景を持った人たちが集まって一つのものを作り上げていくプロセスは、まさに「大洋を航海する帆船」の営みそのものです。不測の事態に対して、クルー一人ひとりが状況を判断し協力し合わなければ船は沈没してしまいます。あらかじめ完璧な計画を立てることはできないからこそ、目的という名の羅針盤を共有し、不測の事態に全員で立ち向かっていくことが求められます。このWFGMモデルのサイクルを絶えず回し、失敗と学習を繰り返すことこそが、新たな価値を発見するための最大の極意です。

参考文献

  • 一般社団法人 日本オープンイノベーション研究会 成富一仁(編著)『実務者のためのオープンイノベーション ガイドブック』株式会社クロスメディア・パブリッシング、2025年
  • 山友治『オープンイノベーション担当者が最初に読む本 外部を活用して成果を生み出すための手引きと実践ガイド』角川アスキー総合研究所、2024年
  • 安田洋史『アライアンス戦略論』NTT出版、2010年

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